調査研究トップ
スズメとツバメの住宅事情 ~2014年スズメ・ツバメの繁殖調査~ 1 
大倉 昌幸
はじめに
 スズメは、スズメ目スズメ科の留鳥で日本では年に13回繁殖するとされる(1)。夏鳥であるツバメは、スズメ目ツバメ科の鳥で年に12回、まれに3回繁殖するとされている(2)。両種とも人間の活動に深くかかわって生息しており、特に営巣場所は人間の生活範囲に強く依存している。
 近年、スズメの個体数の減少が言われ、それを裏付ける研究もされている(3)。また、ツバメについても数の減少が指摘されている(4)。おそらくスズメ・ツバメの個体数は減少していると思われ、営巣場所の減少が原因の一つとして考えられている。繁殖状況を調べることは個体数の推測にもかかわることもあり、私の住居周辺の歩いて調査出来る範囲で両種の繁殖状況を調べることにした。同時に繁殖が確認できた種についても記録することにした。

 (1)「東京都上野動物園におけるスズメの巣内ヒナ数」Bird ResearchVol. 8福田道雄
 (2)「ツバメの繁殖と子育て」BIRDER 20125月号: 28-33 東京都市大学講師・北村亘
 (3)「日本におけるスズメの個体数減少の実態」日本鳥学会誌2009/82号・
  立教大学理学部生命理学科・三上修
 (4)「ふるさとのツバメ総調査」http://www.pref.ishikawa.jp/seikatu/kouryu/2undou2yachou.html
  石川県健民運動推進本部

調査地と方法
(1) 調査地 山梨県西八代郡市川三郷町上野の町屋、矢作、桃林橋地区の約286世帯
(2) 環境  調査地域は、南に芦川が流れ、北西に水田・畑地を挟んで笛吹川が流れ、東側は畑地を挟んで低山につながる村落地域である。広めの学校のグラウンドほどの広さの神社があり、ケヤキ・エノキ・ムクロジ・カシ・カヤの大木を主とした森がある。
(3) 期間  2014年5月23日~6月15日
(4) 方法  調査地の道路を歩き、巣材運び・餌運び等の行動や雛の鳴き声・姿を観察しながら営巣場所を確認する。営巣された環境を記録する。抱卵期以降が確認されたとき「繁殖している」とし、巣材運び・巣作り・単なる巣への出入りなどの確認は「繁殖の可能性がある」とした。スズメの場合、抱卵の判断は難しいので、多くは成鳥の出入り雛の鳴き声が同時に確認された時「繁殖している」と判断した。期間中、観察コースを変えながら同一場所について複数回の確認を行った。
調査結果
(1)

繁殖巣数

 表1 確認した種と繁殖巣数・密度

種名

繁殖
巣数

可能性巣数

合計A

世帯
*1B

100世帯当り
繁殖密度*2

古巣数*3

スズメ

17

5

22

286

7.7

 

ムクドリ

16

0

16

5.6

 

ツバメ

12

1

13

4.5

14

コシアカツバメ

1

0

1

 

2

コムクドリ

3

0

3

 

 

ハクセキレイ

1

0

1

 

 

 *1 歩きながら数えた推測数
 *2 A/B×100
 *3 今年、または昨年使われた可能性が考えられる比較的形の崩れのない巣

 スズメ、ツバメを含め6種の繁殖が確認された。観察した時期について、多くのスズメ・ツバメが1回目の繁殖中で一部は2回目の繁殖に入っているころ、ムクドリはほぼ1回目の繁殖中だと思われる。また、ツバメ、コシアカツバメ以外は実際に巣を見るのは難しいし、ツバメ以外は巣内の雛を見ることも難しい。成鳥がえさを咥えて隙間に入り雛の鳴き声が聞こえたらその場所に巣があり繁殖していると判断した。
(2) 繁殖場所と環境
①スズメ(含む繁殖可能性)
 表2 スズメの繁殖場所

営巣物

場所・環境

木造民家(破風:木板)

13

屋根裏12(野地板と瓦の隙間)、鬼瓦隙間1

木造民家(破風:モルタル)

2

屋根裏2(野地板と袖瓦及び軒瓦の隙間各1)

サイディング壁民家*

1

換気口?1

木造倉庫・作業場

4

屋根裏3(屋根と天井部の隙間1、野路板と袖瓦の隙間2

鉄骨倉庫・駐車場

2

鉄骨の空洞2

樹洞・その他

0

 

合計

22

 

*壁材にサイディングなどを使った近年新築民家の主流となっている住宅

 観察した22例のうち15例が木造の民家に営巣されていた。そのうち13例は切妻屋根の袖(妻側)にある破風板と袖瓦の隙間を出入り口としており(写真1)、その奥から雛の鳴き声が聞こえた。「考察」で詳述するが、野地板と瓦の間にできる隙間に営巣していると思われる。
写真1
 壁だけでなく破風もモルタルで包まれた住宅が多く、この場合通常は隙間がない(写真2)
写真2
 表2の「破風:モルタル」2例はモルタルの劣化によりひび割れが発生し、その隙間から出入りしていた(写真3)
写真3
 最近の住宅は壁材にサイディング等を使ったものが多いが、営巣が確認されたのは1例のみだった。鉄骨建造物では鉄骨の空洞が利用されていた。
 22例中16例は実際に人が居住している民家だった。また、5例の倉庫・作業所・駐車場についても、民家と同じ敷地内であり人間にきわめて近い場所だった。1例のみ集落と50mほど離れた畑中の木造倉庫(元は民家だった)に営巣があった。調査地には空き家も少なからず
あり、それらの多くは木造であるが営巣は確認できなかった。
 なお、家以外の電柱・信号機・パイプ等の人工物での営巣、樹洞など人造物以外での営巣について確実な確認はできなかった。

調査研究トップ

inserted by FC2 system