*この報文は、平塚市博物館の研究報告「自然と文化」32号に投稿させていただいたものです。本文は一部省略している部分がありますので、全文は「自然と文化」32号の65〜72ページをご覧ください。 |
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山梨県都留市におけるイワツバメの繁殖生態 |
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Breeding
Biology of the House Martins Delichon
urbica dasypus in Tsuru-shi, Yamanashi
Prefecture, Central Japan |
西 教生(都留文科大学地域交流研究センター) |
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はじめに |
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イワツバメDelichon urbica dasypus は夏鳥として九州以北に渡来し、一部は暖地で越冬する(五百沢ら 2004)。本種の分布については、その変化も含め関東を中心に多くの報告がある(金井 1976、池田ら 1977、浜口
1978a、浜口・端山 1984、大内ら 1985、唐沢 1987、沼里ら 1997、西
2007)。営巣場所や巣の構造についても調査されており(浜口
1978b,三谷ら 1991,武下 1993)、足環を装着しての渡りや寿命、帰還率、分散などを調べる標識調査も古くから行なわれている(石井 1935、内田・丘 1940、武下 1990)。ヨーロッパに分布する亜種ニシイワツバメD.u.urbicaの繁殖生態に関しては詳細な報告が数多くある(Bryant
1975、Bryant 1978、Tatner 1978、Hund & Prinzinger 1985、Prinzinger & Siedle 1988、Milwright 1990、Menzel 1996)。しかし、日本のイワツバメの繁殖生態に関しては清棲(1978)や下条(1991)、増田(2002)にわずかな記載がある程度で、サンプル数は明記されておらず、第1回繁殖と第2回繁殖についての検討も不十分である。本亜種の繁殖生態の知見は断片的で、繁殖期における就塒形態についてはほとんど調べられていない。本亜種は市街地にも生息し、比較的観察しやすい鳥類であるが、日本のイワツバメの繁殖生態についてのまとまった報告はない。鳥類にとって最も重要な時期である繁殖期の生態を明らかにすることは、その種の基礎的情報を把握し、その成果を基に生活史や社会性の解明など今後さらに研究を深める上で欠かせない。筆者はイワツバメの繁殖生態の調査を行ない、新たな見知が得られたのでここに報告する。
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調査地と方法 |
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調査は、山梨県都留市田原(35°32′N,138°54′E,標高500m)にある都留文科大学1号館のイワツバメのコロニーで行なった。都留市では、3月中旬から10月上旬にかけてイワツバメが観察され、都留文科大学や中央自動車道の高架下で営巣する(西 2006)。都留文科大学のコロニーでは毎年50巣程で繁殖している。渡来日はその年に初めて巣での就塒が確認された日とし、繁殖を終えて全ての雛が巣立ち、巣で就塒が確認されなくなった日を渡去日とした。渡来日および渡去日は2003年~2007年に調べ、渡来日については2月中旬からイワツバメの発見につとめた。造巣日数は2006年に新たに巣を造った番で調べ、造巣期間中には巣の下に落ちている泥以外の巣材を採集した。産卵数および抱卵日数、育雛日数および巣立ち雛数は2006年と2007年にそれぞれ第1回繁殖と第2回繁殖に分けて記録した。第1回繁殖と第2回繁殖の判断基準は巣を単位とし、巣毎に調べた。第1回繁殖中に失敗し、再度繁殖を行なった場合は第1回繁殖として記録した。抱雛日数は2007年の第1回繁殖に調べた。産卵が確認されると巣立ちまで、巣内の状況を調べるために1~2日おきに鏡を使用し巣内を観察した。産卵数は抱卵の開始された巣、抱卵日数は孵化の確認された巣、育雛日数は巣立ちの確認された巣において記録した。育雛日数は全ての雛が巣立った日までとした。抱卵日数および育雛日数は抱卵と育雛の開始された日が確認された巣でのみ記録した。2006年と2007年はコロニーにおいてイワツバメの渡来が確認されると渡去までほぼ毎日、個体数や行動、巣の状況を目視および8×42倍の双眼鏡によって観察した。必要と思われる場合は日の出から日没までコロニーで定点による終日観察を行なった。上記の調査以外に断片的な観察も随時行なった。 |
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