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この報文は、平塚市博物館の研究報告「自然と文化」32号に投稿させていただいたものです。本文は一部省略している部分がありますので、全文は「自然と文化」32号の6572ページをご覧ください。
山梨県都留市におけるイワツバメの繁殖生態
Breeding Biology of the House Martins Delichon urbica dasypus in Tsuru-shi, Yamanashi Prefecture, Central Japan
西 教生(都留文科大学地域交流研究センター)
結果

1)渡来日および渡去日
 12003年から2007年におけるコロニーへの渡来日および渡去日を示した。2004年はほかの年に比べ早く渡来が確認された。渡来日から営巣場所争いが見られ、多くは2羽で巣に入り就塒した。営巣場所争いは、番と思われる2羽が入っている巣に3羽目もしくは4羽が入ろうとし、追い出しや追い掛け合いなど、巣の奪い合いに起因するものがほとんどだった。渡来日から飛翔中や巣内において頻繁にさえずりが聞かれた。渡去は7月中旬から下旬に始まり、これは多くの巣で第2回繁殖を終えるころだった。繁殖の開始が遅れた個体は8月中旬から9月上旬に渡去した。2007年はほかの年に比べ渡去が遅かった。

2)
造巣日数および採集された巣材
 造巣および古巣の補修は渡来後すぐには行なわれず、4月上旬から開始された。造巣日数の平均は21.1±3.8(±SDn=14)だった(1)。造巣は早朝から正午にかけて行なわれるが、正午以降には造巣行動は見られず、コロニーでもほとんどの個体が観察されなくなった。
 造巣期間中に巣の下で採集された巣材はエノコログサSetaria viridis、ヤブガラシCayratia japonica、カワラスゲCarex incisa、カモジグサAgropyron tsukushiense、スズメノカタビラPoa annua、スギナEquisetum arvense、ヨモギArtemisia princeps、イロハモミジAcer palmatumの葉、ケヤキZelkova serrataの葉、アカマツPinus densifloraの葉、トビMilvus migransの体羽、ヤマドリSyrmaticus soemmerringiiの体羽、キジバトStreptopelia orientalisの体羽、アオバトSphenurus sieboldiiの体羽、トラツグミZoothera daumaの体羽、カラス類の体羽だった。

3)産卵数
 産卵は11卵ずつ行なわれ、第1回繁殖は4月下旬から、第2回繁殖の多くは6月中旬から産卵が開始された。第1回繁殖の産卵数の平均は3.57±0.57(n=54)、第2回繁殖の平均は3.09±0.78(n=35)だった(2、表2)。第1回繁殖は4卵が最も多く、第2回繁殖は3卵が最も多かった。

4)抱卵日数および抱雛日数
 第1回繁殖の抱卵日数の平均は15.69±0.94(n=52)、第2回繁殖の平均は15.87±0.69(n=23)だった(3、表2)。第1回繁殖および第2回繁殖とも16日が最も多かった。第1回繁殖で抱卵日数が19日の例は他の個体よりも産卵日が遅く、悪天候により低気温が続いたためだった。抱卵は最終卵を産卵してから開始されるが、第1回繁殖時に3巣、第2回繁殖時に4巣において初卵から抱卵を行なう順次抱卵が観察された。
 2007年の第1回繁殖における抱雛日数の平均は4.7±0.9(n=12)で、4日が最も多かった(4)

5)育雛日数
 第1回繁殖の育雛日数の平均は26.62±1.24(n=47)、第2回繁殖の平均は27.8±1.91(n=25)だった(5、表2)。第1回繁殖は26日、第2回繁殖は27日が最も多かった。第2回繁殖で育雛日数が34日の例は第1回繁殖の開始が遅く、第2回繁殖の巣立ちも他の個体よりも遅かった。

6)巣立ち雛数
 第1回繁殖の巣立ち雛数の平均は2.98±0.74(n=47)、第2回繁殖の巣立ち雛数の平均は1.92±0.7(n=25)だった(6、表2)。第1回繁殖は3羽、第2回繁殖は2羽が最も多かった。
1回繁殖後に第2回繁殖を行なったのは37(68.5)で、その内1羽以上の雛が巣立ったのは26(70.3)だった。

7)就塒形態
 コロニーに渡来した個体の多くは巣の中で就塒を行なうが、夕方、暗くなってからもコロニー上空を飛翔している個体が確認された。それらは巣への出入りを繰り返すが巣内に留まることはなく、日没後も巣での就塒は確認されなかった。造巣中の個体は巣が5割ほど出来上がるとそこに止まって就塒するようになった。それ以前は夕方に造巣中の巣や近くの壁に止まっていても、日没後には観察されなかった。
 第1回繁殖の繁殖後期である5月下旬から6月上旬は47巣中21(44.7)で、第2回繁殖時も多くの巣で繁殖後期である7月中旬から下旬には25巣中15(60)で親鳥の巣における就塒が確認できなかった。親鳥が巣で就塒しているのか、していなのかを確認できなかった巣が第1回繁殖に4巣、第2回繁殖に5巣あった。第1回繁殖の雛の巣立ち後は、巣において番と思われる2羽の成鳥のみの就塒が確認された。繁殖中の巣において、雌のみの就塒しか確認できない巣もあった。
 第1回繁殖の雛が巣立つのは6月上旬以降で、6月中旬から7月中旬には早朝、コロニーに近隣する建物の屋上に止まる30羽以上の巣立ち雛の群れが観察された。これらの群れは毎日、正午までに見られなくなった。
 5月~8月は夜明け前にコロニー上空でイワツバメの鳴き声が聞かれた。日没近くにコロニーから飛び去り、コロニーで就塒しない個体は繁殖期を通して観察された。

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