渡来後から造巣および古巣の補修が開始されるまでは、コロニーでイワツバメが頻繁に観察されるのは早朝と夕方に限られた。これは越冬地での本種の行動(増田 2002、西 未発表)と酷似している。造巣が開始されるまでは昼間にコロニーやその周辺でイワツバメは観察されなかった。また、造巣期間中も正午以降はほとんどの個体がコロニーからいなくなった。育雛中の個体もコロニーから遠く離れることが確認され、特定の個体を追跡観察した結果、行動圏は半径200m以上あると思われた。一方で日中にイワツバメが観察される場合もあった。当調査地では4月上旬に十数センチの積雪が確認される日があり、雪や風雨などで気温が著しく低い日にはほとんどのイワツバメは多くの時間を巣の中で過ごした。2006年7月の早朝には激しい雷雨があり、その時は巣や壁に止まって一時的に避難する個体が観察された。
造巣期間に採集された巣材の中にヤマドリやアオバト、トラツグミの体羽が見られたがこれらの鳥類は都留市では個体数の多い種ではない(西 未発表)。唐沢(1998)によると、八ヶ岳のワシの巣の近くに散乱したキジPhasianus colchicusやヤマドリの羽をイワツバメが巣材として運んでいたという。ヤマドリやアオバト、トラツグミなどはイワツバメが巣材を採集するような開けた場所にはほとんど出てこない。また、巣の下で採集された草本類には根のついているものもあった。イワツバメがヨモギやエノコログサを根ごと抜き取ることは不可能と思われるため、これらは草取りや草刈りなどの人為的な活動に由来するものであり、巣の外側部分を造る泥を取る場所の近くにあったものを運んできたのであろう。泥は主にコロニーから約200m離れた水田から運んでいたが、約50m離れた雨によってできた水溜りからも運ぶことがあった。産座に使用される鳥類の羽をどこから採集してきたのかは不明であるが、巣の外側と産座の羽の採集場所が異なることが示唆された。1例であるが、産座部分の巣材を運び込んでいる隣の巣内から、巣の持ち主がいない間に巣材を取る行動が観察された。
抱卵は雌雄で行なう(増田 2002)が、標識調査の際に雌雄の判定材料のひとつとなる抱卵斑は雄では全く見られなかった。筆者の調査では雌雄における抱卵時間の違いを記録していないが、雄の抱卵は雌に比べ短いと考えられる。また、抱卵中の個体に番相手と思われる個体が給餌する場面も見られた。
育雛日数の平均は第2回繁殖の方が長い(図5)。育雛期間が長いほど捕食される確率が高くなることが予想される。Bryant(1975a)によると、亜種ニシイワツバメでは繁殖期後期になると食物が不足するという。そのため、繁殖期後期には第1回繁殖で巣立った雛がヘルパーとなり給餌を行なう(Bryant 1975a)。イワツバメでも同様に幼鳥のヘルパーが観察されている(西 投稿中)。食物が不足するからなのか、コロニーでは第2回繁殖の後期になると第1回繁殖時よりも食物を求める雛の声がよく聞かれ、この声は夜間も聞かれた。このことから、第2回繁殖時に23巣中4巣(17.4%)において順次抱卵が観察されたのは、なるべく早い時期に1羽でも多くの雛を巣立たせるためなのかもしれない。これについては雛の巣立ち率や給餌回数などをさらに詳しく調査する必要がある。
コロニーに渡来した日から営巣場所をめぐる争いが見られた。それは夕方に多く、さえずりや追い掛け合いも頻繁に観察された。破損していない巣があるにもかかわらず、特定の場所の巣において争いが集中するため、これは営巣場所の不足によるものではなく、良好な条件の巣を選んでいると思われた。同一個体が特定の巣だけに出入りする場面も観察された。巣に入れなかった個体は、日没が近づくと小群になりコロニー上空へ飛び去った。この小群は日没後もコロニーに戻ることはない。下条(1991)は、遅れて渡来し、巣で就塒しない個体は山中の岩壁を塒にしているのではないかと記述している。
雛の巣立ちが近づく繁殖後期には、巣で就塒していない親鳥が観察される。これも、先述の小群のように日没が近づくとコロニー上空へ飛び去る。
巣立ち後の雛がどこで就塒しているのかは明らかにできなかったが、コロニー周辺では早朝から30羽以上の巣立ち雛が建物の屋上に止まっているのが観察された。夜間に建物の屋上を観察したが、イワツバメは発見できなかった。こうした巣立ち雛の群れは渡去の始まる7月中旬までは確認されたが、それ以降は観察されない。山梨県で足環を装着された巣内雛が8日後に千葉県で回収された例(山階鳥類研究所標識研究室 1989)もあり、南アジアからのイワツバメの生態に関する報告によると、巣立った雛は数日間だけ親鳥と就塒するという(Ali & Ripley 1972)。これらのことから、巣立ち後の雛が巣以外の場所で就塒していると考えられる。
日本のイワツバメでは、巣以外の就塒場所の報告はなく(吉井・叶内 1979、大田 2005)、国内で足環を装着された個体の国外回収の例がないことから国外の越冬地も知られていない(山階鳥類研究所 2002)。筆者が知る限り、平田(2007)は北海道で夜間に集魚灯に集まるイワツバメを観察しているものの、渡りの時期のねぐらも明らかになっていない。亜種ニシイワツバメでは、木やアシ原など、巣以外の就塒場所の報告があるものの(Cramp 1988)、古くから飛びながら睡眠するとも考えられている(Curry-Lindahl
1981、Hill 1995)。イワツバメにおいても繁殖期に巣で就塒しない個体や渡りの時期のものは、飛びながら睡眠している可能性がある。
イワツバメの繁殖および越冬が確認されている北部九州のコロニーでは越冬群が観察されるのは12月上旬であり、それらはそのコロニーの繁殖個体だという(武下 2004)。筆者は三重県中西部のコロニーで繁殖および越冬を確認し、個体数を記録しているがここでも越冬が確認されるのは12月からであった(西 未発表)。繁殖後は、12月までコロニーでは観察されなかった。すなわち、繁殖および越冬の確認されている地域では、9月から11月までコロニーにおいてイワツバメは観察されていない。この期間は本種の換羽の時期でもある。就塒場所、渡りの時期のねぐらや国外の越冬地などを調査し、非繁殖期の生態について明らかにしていくことが今後の課題である。
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