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*この報文は、都留文科大学の「研究紀要」69号に投稿したものです。
都留市川茂におけるカモ類の季節変化
西 教生(都留文科大学地域交流研究センター)
はじめに

 都留市は山梨県の東部に位置し、市内を相模川水系桂川が流れている。都留市には池や湖沼などの水鳥の生息する場所はなく、カモ科ANATIDAEの鳥類が観察されるのは桂川流域やその支流だけである。都留市川茂には川茂発電所があり、取水を行なうために桂川に堰堤が設置されていることからその上流部分は水の流れが緩やかになっている。桂川の他の場所は川幅が狭く水の流れも速い。都留市川茂は市内で唯一、多くの水鳥が生息する。
 日本野鳥の会は1982年から1992年まで毎年115日にガン・カモ・ハクチョウ類全国一斉調査を行なっていた(日本野鳥の会研究センター 1992)。この調査は全国で一斉に行なうため、国内に生息するガン・カモ・ハクチョウ類の個体数をかなり正確に記録できる。しかしながら、年間1回だけの調査では越冬場所における個体数や行動の季節変化は把握できない。多くのカモ科鳥類は冬鳥であることから、全国で行なわれている調査は越冬期に重点を置いたものがほとんどで、周年にわたって継続した調査は少ない。そのため、留鳥であるカルガモAnas poecilorhynchaでさえ越冬場所で繁殖期前後にどのような行動をとるのかは明らかにされていない。
 近年、東京都のカモ類の個体数は減少しているという報告がある(川内・松田 2007)が、都留市においてはこれまで、経年的にカモ科鳥類の個体数を記録する調査はまったく行なわれていない。筆者の知る限り都留市のカモ科鳥類に関するものは今泉(1986)の簡単な紹介のみである。ある地域の鳥類相を経年的・長期的に調査することは、自然界における鳥類の個体群変動パターンとその要因を明らかにする上で重要である。また、環境変動や他の何らかの要因によって鳥類の個体数に変化があった場合、それをいち早く察知し原因を究明し保全対策を講じるためにも、長期的なモニタリングが必要になる。筆者は都留市川茂において2005年から2008年の3年間にわたりカモ科鳥類の調査を毎月行ない、カモ類9種を確認し、6種の個体数の季節変化および経年変化、各種の個体数消長パターンの違いを明らかにしたので報告する。

調査地および方法
 調査地は都留市川茂の桂川に設置されている堰堤の上流部(標高420m)である。調査地および調査範囲を1に示した。調査範囲は堰堤から250m上流までの水面および河川敷とした。調査範囲内の両岸にはカモ科鳥類が隠れることのできる植生や場所はなく、水中から突出した障害物もない。水深は測定していないが、透明度から判断して多くの場所は1m前後だと思われた。調査地の右岸には高等学校や人家があり、左岸はコナラQuercus serrataやケヤキZelkova serrataなどの落葉広葉樹林になっている。調査地では給餌や狩猟、水面を利用したレジャーは行なわれておらず、堰堤から270m上流までは禁猟区域であることから釣り人の立ち入りが禁止されている。調査は20058月から20087月にかけて1ヵ月に13回、8×42の双眼鏡を使用して行なった。1ヵ月に1回の時は中旬に、2回の時は上旬と下旬に、3回の時は上旬、中旬、下旬に行ない、なるべく平日の午前中、雨天時以外に15分程度の定点観察によって出現したすべてのカモ科鳥類の種類および個体数、行動および観察された場所を記録した。この時、雌雄は判定しなかった。2回以上調査を行なった月は、平均値をその月の個体数とした。マガモA.platyrhynchosは品種改良されたものが野生化して繁殖しており、野生のマガモと区別できないことも多い(浜口・佐野 1992)。都留市ではマガモであると識別できるのは羽色や大きさ、時期から判断して10月上旬から4月下旬に観察される個体である(西 2006)ことから、10月上旬から4月下旬以外の時期に出現したものは記録しなかった。
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