第6章  渡り鳥の帰巣能力をめぐって
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 繁殖地と越冬地との間の移動を毎年繰り返し、遠く離れた場所へ正確に到達できる渡り鳥の能力について、多くの学者や研究機関の研究実験や学説を紹介しながら、鳥たちの帰巣性について考えてみたい。

▽生まれた場所より育った地域
 農林省が長野県で標識し、東京の多摩川に移した220羽のイワツバメの雛は、翌春には生まれた長野ではなく実験場周辺の八王子にコロニーをつくって繁殖した。

▽渡りの遺伝性
 シュッツ(独)は、親が渡りきったあとに放した247羽の幼鳥が、本来その種が渡る方向へ飛ぶことを確かめた。
 ベルトホルト(独)は、集団の異なる同じ種の鳥を交配して出来た個体は、渡りの時期が両方の中間型になったことを確かめた。
 私(中村)は、前章で紹介した渡りと日照の関連を調べる実験を通して、基本的には渡り行動は遺伝的に仕組まれていると考える。

▽成鳥と幼鳥の渡り(遺伝と生後学習)
 パーディック(蘭)は、延1万羽以上のホシムクドリをオランダのハーグから東南東へ750Km離れたスイスで放した。すると、幼鳥は本来の渡りのコースに平行して渡ったが、成鳥は移動されたことによる渡りの方向の誤差を補正して本来の渡り地域に到達した。
 内田康夫は、浜名湖の越冬ツバメの調査で、成鳥は平均58%が帰還すると述べ、渡りの途中などでの死亡率を勘案すると95%以上の帰還率となると推測している。

▽伝書バトと帰巣性
 レイナウドは、伝書バトの帰巣の記憶は半規管が関係し、帰路にその記憶をたどると考えた。これに対し丘直通(動物心理学者)は、麻酔を施して放したハトが無事に帰巣したとの実験結果を報告している。
 原田康夫(医学博士)は、半規管に関する実験で、ハトの内耳にある感覚器官の壺嚢(このう)が磁気センサーの役目をすると主張した。
 ビルチュコ(独)は、ハトの幼鳥は地磁気に頼って帰巣し、成長するに従って太陽コンパスの利用を確立していくと述べている。

 このような実験結果から、帰巣性が渡りの要因になることが考えられるが、渡りが遺伝的に備わっているのか、生後学習で獲得するものなのかは両方の面があるようにみえる。彼らの渡りにおける超能力の源泉がどこに潜んでいるのか、完全に理解するにはまだまだ未知の部分が多いのではないかと思われる。
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